けよ、一つの瞬間のなかに閃く永遠のイメージにも、雲のかなたの美しき嘆きにも……。
お前の死は僕を震駭《しんがい》させた。病苦はあのとき家の棟《むね》をゆすぶった。お前の堪えていたものの巨《おお》きさが僕の胸を押潰《おしつぶ》した。
おんみたちの死は僕を戦慄《せんりつ》させた。死狂う声と声とはふるさとの夜の河原《かわら》に木霊《こだま》しあった。
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真夏ノ夜ノ
河原ノミズガ
血ニ染メラレテ ミチアフレ
声ノカギリヲ
チカラノアリッタケヲ
オ母サン オカアサン
断末魔ノカミツク声
ソノ声ガ
コチラノ堤ヲノボロウトシテ
ムコウノ岸ニ ニゲウセテユキ
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それらの声はどこへ逃げうせて行っただろうか。おんみたちの背負わされていたギリギリの苦悩は消えうせたのだろうか。僕はふらふら歩き廻っている。僕のまわりを歩き廻っている無数の群衆は……僕ではない。僕ではない。僕ではない。僕ではなかったそれらの声はほんとうに消え失せて行ったのか。それらの声は戻ってくる。僕に戻ってくる。それらの声が担っていたものの荘厳さが僕の胸を押潰す。戻ってくる、戻ってくる、い
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