。僕にはよくわからない。僕はもっともっと怕くなるのだ。すべての瞬間に破滅の装填《そうてん》されている宇宙、すべての瞬間に戦慄が潜んでいる宇宙、ジーンとしてそれに耳を澄ませている人間の顔を僕は夢にみたような気がする。僕にとって怕いのは、もう人間関係だけではない。僕を呑もうとするもの、僕を噛《か》もうとするもの、僕にとってあまりに巨大な不可知なものたち。不可知なものは、それは僕が歩いている廃墟のなかにもある。僕はおもいだす、はじめてこの廃墟を見たとき、あの駅の広場を通り抜けて橋のところまで来て立ちどまったとき、そこから殆ど廃墟の全景が展望されたが、ぺちゃんこにされた廃墟の静けさのなかから、ふと向うから何かわけのわからぬものが叫びだすと、つづいてまた何かわけのわからないものが泣きわめきながら僕の頬《ほお》へ押しよせて来た。あのわけのわからないものたちは僕を僕を僕のなかでぐるぐると廻転さす。
 僕は僕のなかをぐるぐる探し廻る。そうすると、いろんな時のいろんな人間の顔が見えて来る。僕にむかって微笑《ほほえ》みかけてくれる顔、僕をちょっと眺める顔、僕に無関心の顔、厚意ある顔、敵意を持つ顔、……だが
前へ 次へ
全63ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング