が喫驚したやうに注意した。雄二はぐつたり頭を屈めて、ちぢこまつてしまつた。
やがて、舟が川岸に着けられると、雄二は父に抱かれて陸に下ろされた。下駄を穿かされたかと思ふと、ふらふら目が昏んで、雄二は地面に屈んだ。そして遽かに吐気がして来た。雄二はぐつと涙が鼻の方へ流れて来た。雄二は微かな声をあげて泣き出した。
「舟に酔つたのだ、すぐなほるよ」と、父が宥めて呉れた。そして、何時の間にか小さな置座を持つて来てくれた。雄二がその上に腰を下すと、もう段々楽になつたが、何だかがつかりして不思議だつた。
間もなく船頭が俥を傭つて来た。雄二は姉に連れられて、さきに家へ帰ることになつた。
「もう大丈夫」と、菊子が訊ねると雄二は大きく頷いた。父も母も兄達もみんなが俥を見送つた。俥は用心して緩々と走つた。雄二はもうすつかり元気になつてゐた。俥は長い長い橋を渡つてゆきむかふに海が見えた。
底本:「定本原民喜全集 1」青土社
1978(昭和53)年8月1日発行
初出:「文芸汎論」
1939(昭和14)年9月号
入力:海老根勲
校正:Juki
2004年8月24日作成
2007年7月9日修正
前へ
次へ
全15ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング