度路の真上にあつて風はなかつた。大吉と貴磨は父を追越すと、洋館建の写真屋の角を廻つて、勝手に進んで行くのだつた。雄二は母と姉に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]まれてゆつくり歩いてゐたが、兄達が間違つた方角へ行くのではないかと心配した。すると、父も写真屋の角を廻つてしまつた。K橋へ行くのではなささうだつた。やがて雄二達も角を廻つて、小路へ出た。そこは片方に半間幅の溝があつて、溝に添つて、柳の木が遠くまで続いてゐた。
片方の家には、板の橋や石の橋があつた。溝の泥水のなかに一ところ石油がギラギラ五色に輝いてゐるのを雄二は歩きながら見とれた。太い柳の幹からは、指のやうな草がぶらさがつてゐた。片方は塀を廻らした家や格子のある家が並んでゐてそのなかに一軒カーキー色の日覆を張つた雑貨店があつた。店先の置座に狆が眼を光らしながら雄二を見送つてゐた。ふと向を見ると、何時も雄二の家の前を通る気違の女がやつて来るところだつた。綿の襤褸を着ぶくれて、懐から麦藁を出して編みながら、突出た下唇で何かぶつぶつ呟いてゐる。兄達はもうその気違と擦違つてしまつた。大吉は態と振返つ
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