心願の国
原民喜

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(例)天の※[#「さんずい+景+頁」、第3水準1−87−32、読みは「こう」、229−上−5]気は
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 〈一九五一年 武蔵野市〉

 夜あけ近く、僕は寝床のなかで小鳥の啼声をきいてゐる。あれは今、この部屋の屋根の上で、僕にむかつて啼いてゐるのだ。含み声の優しい鋭い抑揚は美しい予感にふるへてゐるのだ。小鳥たちは時間のなかでも最も微妙な時間を感じとり、それを無邪気に合図しあつてゐるのだらうか。僕は寝床のなかで、くすりと笑ふ。今にも僕はあの小鳥たちの言葉がわかりさうなのだ。さうだ、もう少しで、もう少しで僕にはあれがわかるかもしれない。……僕がこんど小鳥に生れかはつて、小鳥たちの国へ訪ねて行つたとしたら、僕は小鳥たちから、どんな風に迎へられるのだらうか。その時も、僕は幼稚園にはじめて連れて行かれた子供のやうに、隅つこで指を噛んでゐるのだらうか。それとも、世に拗ねた詩人の憂鬱な眼ざしで、あたりをじつと見
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