る[#地付き]草々
村岡敏君[#地から1字上げ]七月廿四日
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●昭和十三年頃 旅先の箱根から 千葉市登戸二の一〇七 妻の原貞恵宛
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さつきまで霧だつたが、今は雨が音をたててゐる。鶯が啼いたりききなれぬ鳥の声がする。昨夜は廊下の燈が眩しく、それに夜どほし咳をする人や赤ん坊の声で睡れなかつた。どこへ行つても理想的な場所はないらしい。そんな愚痴を自分でもをかしく思ひながら、神経は絶えずいらだつて居る。千葉の方も心配だし比較的早く帰るかもしれない。強羅は蠅が物凄かつた。世間の人の平気でゐることを苦労にする自分は一体どうかしてゐるのだらうか。今日部屋をとりかへた。
既に世界は二つの種族に分かたれてしまふ。極端に野蛮人とまた極端に非生活的人と。
その中間はすべて穏かなるロボツトのみ。
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●昭和十八年?頃 発信所不明(千葉市登戸二の一〇七の自宅からか)深川恭子(妹)宛
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千葉へ帰つて会社へも出たが疲れが出たのか熱が出て一日寝た。どうも気候が定まらず今
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