て短篇になると思へました。美樹が漸く上京して来ました。広島では間もなくバラツクが建つさうでこの暮には一度あちらへ行つてみようと考へて居ます。学校も今学期限りやめるつもりです。気ケウ(肺の治療にする)といふ字がわからないのですが、調べてくれませんか。
 相変らず天気が不順ですね。



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●昭和二十三年二月六日 東京都神田神保町三ノ六より 杉並区阿佐谷 永井善次郎宛
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 お元気ですか。
 どうもこの頃は雑用に追はれて落着けません。小説も書かねばならないのになかなか捗りません。長光太が暦程(3)[#「(3)」は縦中横]に詩論を出してゐますが、これはなかなか面白いものでした。壊滅の序曲はどうなつてゐるのでせうか。今ならいいところへ出せさうなのですが、取し戻て頂けないでせうか。もつとも昭森社で組んでゐるのでしたら仕方ありませんが確かめてみて下さい。



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●昭和二十三年八月頃 東京都神田神保町一ノ三能楽書林内より 長野県軽井沢町追分山屋内 永井善次郎宛
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 ハガキ有難う。東京はこの一週間ばかり猛暑です。僕の部屋など畳が熱くなつてゐて昼寝さへ出来ません。時時阿佐ヶ谷の美樹のところへ避暑に行きます。水田氏とは一度逢ひましたがまだその後、部屋の件については、はつきりした返事を得てゐません。三田文学は十二号まで編輯済ませました。十三号にも平田君に時評もらふつもりですが、十四号から中田君が書いてくれるでせうか。病気とききましたので、おたづねします。高原特輯号に小説が欲しいといふことをききましたので「雲の裂け目」を掛川氏あてに送りました。
 明日は美樹とアメリカ交響楽を見に行くはずです。暑くてとても書けません。無理して秋に弱つては困ると思ひ、なまけてゐます。



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●昭和二十五年三月頃 武蔵野市吉祥寺二四〇六川崎方より 茨城県多賀郡大津町西町大津館内 永井善次郎宛
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 二三日寒さが烈しくて震へ上つてゐましたが今日は漸く春らしい天気にもどりました。この近辺を歩いてゐると樹木が多いので、ひとりでに武蔵野を感じます。大岡昇平の「武蔵野夫人」は名作になりさうですね。埴谷君も昨日、群像の原稿書上げ
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