はドイツ軍と試合して勝つた由 芽出度い どしどし勝つて全勝して帰り給へ そうすると大変都合がいいから是非お願ひしておく 今日はうらぼんで籔入りで松竹少女歌劇も勝てオリンピツクとかいふオペラをやつて居る やつと梅雨が晴れて千葉も暑くなり蚊がブンブンブンブンブンブン啼く ベルリンには蚊が居るかしらん身躰を大事にして元気で暮し給へ
七月十五日
[#地付き]杞憂
村岡敏君※[#判読不可。「尓(に)」あるいは「与(よ)」か?]
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
●昭和十一年七月二十四日 千葉市登戸より ベルリン在 村岡敏宛
[#ここで字下げ終わり]
暑中御伺申上候サテサテ日本軍は勝ちましたか 城谷では十一月に赤ん坊が生れるそうです 伯林でもう少しはサインして貰ひましたか 伯林の女學生がサインしておくんねえと強請りはしまへんか 今日は颱風が吹いて居て昨日長崎沖で軍艦が搖れて沈みかけた アア防空演習で東京はマツクロケノケだそうだ アルプス登山の四勇士はあへなく倒れたそうですね 千葉の小犬には近所の不良犬がぞろぞろと押しかけて來ます それこそ選りどりみどりだと申し居り候
御健勝を祈る[#地付き]草々
村岡敏君[#地から1字上げ]七月廿四日
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
●昭和十三年頃 旅先の箱根から 千葉市登戸二の一〇七 妻の原貞恵宛
[#ここで字下げ終わり]
さつきまで霧だつたが、今は雨が音をたててゐる。鶯が啼いたりききなれぬ鳥の声がする。昨夜は廊下の燈が眩しく、それに夜どほし咳をする人や赤ん坊の声で睡れなかつた。どこへ行つても理想的な場所はないらしい。そんな愚痴を自分でもをかしく思ひながら、神経は絶えずいらだつて居る。千葉の方も心配だし比較的早く帰るかもしれない。強羅は蠅が物凄かつた。世間の人の平気でゐることを苦労にする自分は一体どうかしてゐるのだらうか。今日部屋をとりかへた。
既に世界は二つの種族に分かたれてしまふ。極端に野蛮人とまた極端に非生活的人と。
その中間はすべて穏かなるロボツトのみ。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
●昭和十八年?頃 発信所不明(千葉市登戸二の一〇七の自宅からか)深川恭子(妹)宛
[#ここで字下げ終わり]
千葉へ帰つて会社へも出たが疲れが出たのか熱が出て一日寝た。どうも気候が定まらず今
前へ
次へ
全19ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング