墜ちたのだった。やがて眼の前の暗闇が薄れて、あたりの様子が見えてくると、すぐに私の気持ははっきりして来た。壁の落ちて畳の散乱した床の上をのそのそ歩いていると、そこへ妹が駈けつけて来た。妹はかなり興奮していたようだが、気丈夫なところがあった。この元気な姿を見て私は一層気持がはっきりした。
 私は自分が全裸体でいるのに気づいて苦笑した。何か着るものはないかと妹を顧ると、妹は壊れた押入から、うまくパンツを見つけて渡してくれた。それから彼女は鋏や布きれを忙しげにとりだしていた。妹はその布きれで店員たちの負傷を手当してやったのだそうだ。
 私は身につけるものや、持って逃げるものを見つけ出そうとしていろんな品物の滅茶苦茶に散乱しているなかを探しまわった。上衣や帽子や水筒は見つかったが、ずぼんは出て来なかった。女下駄が一足あったので手にとってみたがそれはすぐ捨てた。昨夜まで読みかけていた書物も見つかったが、それも見捨てた。座蒲団は一枚小わきにかかえた。これはその日、川の水に浸して頭にかぶり、火炎の熱さを防ぐのに役立った。
 縁側の畳をはねあげてみると、持逃げ用カバンが見つかったので私は吻とした。ふと
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