させると、田崎さんは約束してくれました」
こうして、清二の家の難題もすらすら解決した。と、その時、恰度《ちょうど》、警戒警報が解除になった。
「さあ、また警報が出るとうるさいから今のうちに帰りましょう」と高子は急いで外に出て行くのであった。
暫くすると、土蔵|脇《わき》の鶏小屋で、二羽の雛《ひな》がてんでに時を告げだした。その調子はまだ整っていないので、時に順一たちを興がらせるのであったが、今は誰も鶏の啼声に耳を傾けているものもなかった。暑い陽光《ひざし》が、百日紅《さるすべり》の上の、静かな空に漲《みなぎ》っていた。……原子爆弾がこの街を訪れるまでには、まだ四十時間あまりあった。
[#地から2字上げ](昭和二十四年一月号『近代文学』)
底本:「夏の花・心願の国」新潮文庫、新潮社
1973(昭和48)年7月30日初版発行
1999(平成11)年5月25日38刷
※「嵐《あらし》が揉《も》みくちゃにされて」を、「嵐に」としている異本がある。
入力:tatsuki
校正:皆森もなみ
2002年10月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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