ていて、両手、両足、顔をやられていた。この男は、中国ビルの七階で爆弾に遇《あ》ったのだそうだが、そんな姿になりはてても、頗《すこぶ》る気丈夫なのだろう、口で人に頼み、口で人を使い到頭ここまで落ちのびて来たのである。そこへ今、満身血まみれの、幹部候補生のバンドをした青年が迷い込んで来た。すると、隣の男は屹《きっ》となって、
「おい、おい、どいてくれ、俺の体はめちゃくちゃになっているのだから、触りでもしたら承知しないぞ、いくらでも場所はあるのに、わざわざこんな狭いところへやって来なくてもいいじゃないか、え、とっとと去ってくれ」と唸《うな》るように押っかぶせて云った。血まみれの青年はきょとんとして腰をあげた。
 私達の寝転んでいる場所から二|米《メートル》あまりの地点に、葉のあまりない桜の木があったが、その下に女学生が二人ごろりと横わっていた。どちらも、顔を黒焦げにしていて、痩《や》せた脊を炎天に晒《さら》し、水を求めては呻《うめ》いている。この近辺へ芋掘作業に来て遭難した女子商業の学徒であった。そこへまた、燻製《くんせい》の顔をした、モンペ姿の婦人がやって来ると、ハンドバッグを下に置きぐっ
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