ゐたが、岸の上にも岸の下にも、そのやうな人々がゐて、水に影を落してゐた。どのやうな人々であるか……。男であるのか、女であるのか、殆ど区別もつかない程、顔がくちやくちやに腫れ上つて、随つて眼は糸のやうに細まり、唇は思ひきり爛れ、それに、痛々しい肢体を露出させ、虫の息で彼等は横はつてゐるのであつた。私達がその前を通つて行くに随つてその奇怪な人々は細い優しい声で呼びかけた。「水を少し飲ませて下さい」とか、「助けて下さい」とか、殆どみんながみんな訴へごとを持つてゐるのだつた。
「をぢさん」と鋭い哀切な声で私は呼びとめられてゐた。見ればすぐそこの川の中には、裸体の少年がすつぽり頭まで水に漬つて死んでゐたが、その屍体と半間も隔たらない石段のところに、二人の女が蹲つてゐた。その顔は約一倍半も膨脹し、醜く歪み、焦げた乱髪が女であるしるしを残してゐる。これは一目見て、憐愍よりもまず、身の毛のよだつ姿であつた。が、その女達は、私の立留まつたのを見ると、
「あの樹のところにある蒲団は私のですからここへ持つて来て下さいませんか」と哀願するのであつた。
見ると、樹のところには、なるほど蒲団らしいものはあつた。
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