れが広島駅の事務所らしかった、私はその受付に行って汽車がいま開通しているものかどうか尋ねてみた
 それから私は東照宮の方へ引かえしたのだが、ふと練兵場の柳の木のあたりに、一匹の馬がぼんやりたたずんでいる姿が目にうつった、これはクラもなにもしていない裸馬だった、見たところ、馬は別に負傷もしていないようだが、実にショウ然として首を低く下にさげている、何ごとかを驚き嘆いているような不思議な姿なのだ
 私は東照宮の境内に引かえすと石垣の横の日陰に横臥していた、昼ごろ罹災証明がもらえることになったので、私はまた焼津の方へ向う道路を歩いて行った、道ばたの焼残った樹木の幹を背に、東警察署の巡査が一人、小さな机をかまえていた
 罹災証明がもらえて戻ってくると今度はまもなく三原市から救援のトラックがやって来た
 私は大きなニギリ飯を二つてのひらに受けとって、石垣の日陰にもどった、ひもじかったので何気なく私は食べはじめた、しかしふとお前はいまここで平気で飯を食べておられるのか、という意識がなぜか切なく私の頭の片隅にひらめいた、と、それがいけなかった、たちまち私は「オウト」を感じてノドの奥がぎくりと揺らいで
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