を祈ります みなさんによろしく
[#地から3字上げ]原民喜

 伊藤整、中島健蔵氏にお逢ひの際はとくによろしくお伝へ下さい



 遠藤周作氏宛

 これが最後の手紙です。去年の春はたのしかつたね。では元気で。



 大久保房男氏宛

 大久保君
 あなたにはネクタイをあげます
 あなたはたのしく生きて下さい
 心願の国といふ原稿 群像で不要の際は近代文学へ渡して下さい



 祖田祐子氏宛

 祐子さま
 とうとう僕は雲雀になつて消えて行きます 僕は消えてしまひますが あなたはいつまでも お元気で生きて行つて下さい
 この僕の荒凉とした人生の晩年に あなたのやうな美しい優しいひとと知りあひになれたことは奇蹟のやうでした
 あなたとご一緒にすごした時間はほんとに懐しく清らかな素晴らしい時間でした
 あなたにはまだまだ娯しいことが一ぱいやつて来るでせう いつも美しく元気で立派に生きてゐて下さい
 あなたを祝福する心で一杯のまま お別れ致します
 お母さんにもよろしくお伝へ下さい
[#地付き](作品「悲歌」が同封された)



 藤島宇内氏宛

 大変厄介なことをお願ひしますが、よろしく処理して下さい。
 佐々木基一君 講談社の大久保君 鈴木重雄君の三人にはすぐ連絡しておいて下さい
 渡すものが押入のなかにあります
 風呂敷に包んだ折カバンと風呂敷包みの書物と黒いトランク(名札をつけておきました)この三つを佐々木君に渡して下さい もう一つの風呂敷包みを群像の大久保君に渡して下さい
 佐藤春夫 奥野信太郎 丸岡明 山本健吉 庄司総一諸氏に手紙がありますがそれはそのうち渡して下さい
 切手をはった封書九通はすぐ投函しておいて下さい
 歴程詩集が出たら一冊左記へ送って下さい
 (祖田祐子氏の勤め先と名前)

 それから
 現代詩代表選集が出たら左記へ送るやう文芸家協会へ交渉して下さい
  広島市 幟町一六二ノ二 原 信嗣
 面倒なことばかりお願ひするのですが、これも詩の因縁でせう
 先日 能楽書林で「谷間より」を見せてもらひました お元気でやつて下さい
 あなたにはセビロ服をかたみに差上げます
[#地付き](作品「悲歌」が同封された)



底本:「定本原民喜全集III」青土社
   1978(昭和53)年11月20日印刷
   1978(昭和53)年11月30日発行
※一
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング