゚ておきました。
そのうちに、もう百姓には、私が理性的な生物(人間)だ、ということが、わかっていたのです。彼は何度も私に話しかけましたが、その声は、まるで水車の響のようで、私の耳は破れそうでした。私も、知っているかぎりのいろんな外国語を使って、力一ぱいの大声で、話しかけてみました。すると向うは、耳をすぐ私のそばに持って来て、聞いてくれるのですが、駄目でした。私たちの言い合っている言葉は、お互に意味が通じないのでした。
召使たちはまた麦刈に取りかゝりましたが、主人はポケットから、ハンカチを取り出し、二つ折りにして、左手の上にひろげ、その掌を地面の上に差し出して、この中に入って来いと、手まねで私に合図をします。その掌の厚さは一フートぐらいでしたから、私も、らくにのぼれるのです。今はとにかく主人の言うとおりにしていようと思いました。
それで、私は落っこちないように用心しながら、ハンカチの上に長くなって寝ころびました。すると、彼はハンカチの端で、私の頭のところを大切そうにくるんでしまい、そのまゝ、家に持って行きました。
家に帰ると、彼はさっそく、細君を呼んで、ハンカチの中のものを見せま
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