オゃべらなくなったのを見ると、彼は大へん親切にしてくれました。一たいどこへ行ったのか、またどうしてあんな大きな箱に入れられて流されたのか、ひとつ話してくれと言います。
 船長の話では、正午頃、望遠鏡をのぞいていると、あの箱が眼にうつったので、最初は船だと思ったそうです。それからボートを出して近づいてみると、家が泳いでいるというので、みんなびっくりしました。本船の方へ引っ張り上げようとしていると、ちょうどそのときハンカチのついた棒を穴から突き出す者があるので、これはきっと誰か不幸な人間がとじこめられているにちがいない、と思ったのだそうです。
「それでは一番はじめ私を見つけた頃、何か大きな鳥でも空を飛んでいるのを見かけなかったでしょうか。」
 と私は尋ねてみました。
「あ、あのとき、鷲が三羽北を指して飛んでいました。でも別に普通の鷲と変ったところはなかったようです。」
 と一人の船長が答えました。
 だが、それは非常に高く飛んでいたので、小さく見えたのでしょう。どうも私の尋ねたり言ったりすることは、みなに合点がゆかないようでした。私はイギリスを出発したときから、今までのことを、ありのまゝ話
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