ノなったのです。召使は梯子を取りに駈けだしました。猿は屋根の上に腰をおろすと、まるで赤ん坊のように片手に私を抱いて、顎の袋から何か吐き出して、それを私の口に押し込もうとします。
そして今、屋根の下では数百人の人々が、この光景を見上げているのです。私が食べまいとすると、猿は母親が子をあやすように、私を軽く叩くのです。それを見て、下の群衆はみんな笑いだしました。実際、これは誰が見ても馬鹿々々しい光景だったでしょう。なかには猿を追うつもりで、石を投げるものもいましたが、これはすぐ禁じられました。
やがて梯子をかけて、数人の男がのぼって来ました。猿はそれを見て、いよ/\囲まれたとわかると、三本足では走れないので、今度は私を瓦の上に残しておいて、一人でさっと逃げてしまいました。私は地上三百ヤードの瓦の上にとまったまゝ、今にも風に吹き飛ばされるか、目がくらんで落ちてしまうか、まるで生きた心地はしませんでした。が、そのうちに召使の一人が、私をズボンのポケットに入れて、無事に下までおろしてくれました。
私はあの猿が私の咽喉に無理に押し込んだ何か汚い食物のため、息がつまりそうでした。しかし、私の乳
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