キし、この厭ったらしい虫が、食事中も、ぶん/\耳許で唸りつゞけるので私はちっとも落ち着けません。ときによると、食物の上にとまって、汚い汁や、卵を残してゆきます。ところが、この国の人たちの目には、それが一向に見えないのですが、私の目には実によく見えるのです。とき/″\、蠅は、私の鼻や額にとまって痛く刺したり、厭な臭を出します。
蠅の足の裏側には、ねば/\したものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねば/\したものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上ったものです。ところが、侏儒の奴はいつもこの蠅を五六匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりなのでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。
今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまゝ、窓
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