竄フ鉢の中にほうりこむと、そのまゝ一散に逃げ出しました。私はまっ逆さに落されましたが、あのとき、もし泳げなかったら大へんでした。ちょうど、グラムダルクリッチは、そのとき、部屋の向うの方に行っていましたし、王妃は驚きのあまり、私を助けることを忘れていられました。私がしばらく鉢の中で泳ぎまわっていると、乳母さんが駈けつけて救い出してくれましたが、そのときはもうクリームをずいぶん飲んでいました。
 私はさっそくベッドに寝かされました。まあ損害といったら、着物一着がすっかり駄目になったことぐらいでした。侏儒はひどく鞭で打たれ、罰として鉢の中のクリームを全部飲まされることになりました。そしてその後、侏儒は王妃から愛想をつかされ、間もなく他の貴婦人にやってしまわれました、だからそれっきり、二度と彼の顔を見なくてすんだので、私はほっとしました。
 私は臆病者だといって、王妃からよくからかわれました。
 そして、王妃は、お前の国の者はみんなそんなに臆病なの、とよくお聞きになります。それには、ちょっと訳があるのです。この国では、夏になると、蠅が一ぱい出ます。ところが、その蠅というのが、雲雀ほどの大きさで
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