ウせられました。これは一たい何だろうかと、学者たちは、しきりに首をひねって、私の形を調べていましたが、みんな、まち/\のことを言うのでした。
 これはどうも自然の正しい法則から生れたものではない、こんな身体では木によじのぼることも、地面に穴を掘ることもできないから、さぞ困るだろう、ということだけは、三人とも意見が合いました。
 彼等は私の歯をよく調べてみたうえで、これは肉食動物だと言いだしました。ところが、大がいの獣は私より強いのです。野鼠でも私より敏捷でした。これでは、かたつむり[#「かたつむり」に傍点]か虫でも食べるのでなければ、生きてゆけるとは考えられないのです。ところが、いろいろやってみても、とてもそんなものは食べないということがわかりました。
 学者の一人は、もしかすると、これはまだ産れない前の子供だろう、と言いだしました。だが、それには二人の学者がすぐ反対しました。これには手も足もちゃんとついている、それに髯まである、髯は虫眼鏡で見なければわからないが、とにかく、これは数年間は生きて来たものにちがいない、と二人の学者は言うのでした。
 学者たちは、また首をひねって言います。
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