ワした。
「人間なんて、いくら威張ったところで、つまらないものではないか。このちっぽけな虫けらでさえ、まねができるのだからな。どうだ、こんな奴等にでも、位とか称号があるというし、家とか市とか呼ぶ、ちっぽけな巣や穴なども作るらしい。それに、お洒落をしてみたり、戦争してみたり、喧嘩したり、欺いたり、裏切ったりするというのだからな。」
と、大たいこんなふうな調子で言われましたので、自分の祖国がこんなに軽蔑されるのを聞いては、私は腹が立って、顔が真赤になってしまいました。しかし、よく/\考えなおしてみると、私は陛下に恥をかゝされたのかどうか、あやしくなりました。というのは、私はこうして幾月か、この国民の姿や話しぶりに馴れ、見るものがみな、この国では人間の大きさに比例して大きい、ということがわかってきたので、今では、もうはじめのように、その大きさに驚いたり恐れたりしなくなりました。ですから、今では、もしイギリスの貴族たちが晴着を着て、さも上品らしく、気どった恰好で、歩いたり、おじぎをしたり、おしゃべりしているのを見たら、私はかえって、噴き出すかもしれません。ちょうど、今この国の陛下や貴族が、私を笑ったように、私もまた、彼等を大いに笑ってやりたい気になるでしょう。
また実際、王妃がよく私を掌に乗せて鏡の前につれて行き、私たち両方の全身を一しょに映して見せるときなど、われながら微笑させられました。全くこの滑稽な比較には、私はなんだか自分の実際の身体が、ずっと小さく縮まってくるような気がしました。
私が一番癪にさわり、悩まされたのは、王妃のところの侏儒でした。
彼は国中で一等背が低いので、(実際、三十フィートに足りないようでした)自分よりさらに小さなものを見ると、急に高慢になって、たとえば、私が王妃の次の間で貴族たちと話をしていると、彼はひどくふんぞり返って、私のテーブルのそばを通って行くのです。そして彼は、私の小さいことを、いつも一言二言いわねば気がすまないのでした。私は彼に向って、「おい、兄弟、相撲をとってみようか。」と言ってやったり、口でなんとかやりこめて、そんなことで仇討をしてやるのでした。
ある日、食事のとき、この意地悪小僧は、何か私の言ったことに、かっと腹を立てると、王妃の椅子の上に跳び上り、私の腰のあたりをつかんで、まるで見境もなく、いきなりクリームの入った銀の鉢の中にほうりこむと、そのまゝ一散に逃げ出しました。私はまっ逆さに落されましたが、あのとき、もし泳げなかったら大へんでした。ちょうど、グラムダルクリッチは、そのとき、部屋の向うの方に行っていましたし、王妃は驚きのあまり、私を助けることを忘れていられました。私がしばらく鉢の中で泳ぎまわっていると、乳母さんが駈けつけて救い出してくれましたが、そのときはもうクリームをずいぶん飲んでいました。
私はさっそくベッドに寝かされました。まあ損害といったら、着物一着がすっかり駄目になったことぐらいでした。侏儒はひどく鞭で打たれ、罰として鉢の中のクリームを全部飲まされることになりました。そしてその後、侏儒は王妃から愛想をつかされ、間もなく他の貴婦人にやってしまわれました、だからそれっきり、二度と彼の顔を見なくてすんだので、私はほっとしました。
私は臆病者だといって、王妃からよくからかわれました。
そして、王妃は、お前の国の者はみんなそんなに臆病なの、とよくお聞きになります。それには、ちょっと訳があるのです。この国では、夏になると、蠅が一ぱい出ます。ところが、その蠅というのが、雲雀ほどの大きさですし、この厭ったらしい虫が、食事中も、ぶん/\耳許で唸りつゞけるので私はちっとも落ち着けません。ときによると、食物の上にとまって、汚い汁や、卵を残してゆきます。ところが、この国の人たちの目には、それが一向に見えないのですが、私の目には実によく見えるのです。とき/″\、蠅は、私の鼻や額にとまって痛く刺したり、厭な臭を出します。
蠅の足の裏側には、ねば/\したものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねば/\したものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上ったものです。ところが、侏儒の奴はいつもこの蠅を五六匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりなのでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。
今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまゝ、窓
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