A私にケチをつけだしました。そして、私を快く思っていない連中が、何かたくらみをはじめたようです。そのため、二ヵ月とたゝないうちに、私はもう少しで殺されるところでした。
 さて、私が敵の艦隊を引っ張って戻ってから、二週間ばかりすると、ブレフスキュ国から、和睦を求めて、使がやって来ました。この講和は、わが皇帝側に非常に都合のよい条約で、結ばれました。使節は六人で、それに、約五百人の従者がしたがいました。彼等が都に入って来るときの有様は、いかにも、君主の大切なお使いらしく、実に壮観でした。
 私も彼等使節のためには、何かと宮中で面倒をみてやりました。条約の調印が終ると、彼等は私のところへも訪ねて来ました。私が彼等に好意を持っていたことは、それとなく彼等も聞いてわかったのでしょう。彼等はまず、私の勇気とやさしさをほめ、それから、
「われ/\の皇帝も、かねてから噂であなたのことを聞いています。あなたの力業を、ひとつ実地に見せてもらいたいと言っています。どうかぜひ一度お出かけください。」
 と言うのでした。
 私も、すぐ承知しました。しばらくの間、私は使節たちを、いろ/\ともてなしましたが、彼等もすっかり満足し、私に驚いたようです。そこで、私は彼等にこう言っておきました。
「あなた方がお国へ帰られたら、陛下によろしくお伝えください。陛下のほまれは、世界中に知れわたっていますから、私もイギリスに帰る前に、ぜひ一度お目にかゝりたいと存じます。」
 そんなわけで、私はリリパット皇帝にお目にかゝると、さっそくこんなお願いをしました。
「そのうち私はブレフスキュ皇帝に会いに行きたいと思っているのですが、どうか行かせてくださいませ。」
 皇帝は許してくれましたが、ひどく気の乗らない御様子でした。これはどうしたわけなのか、私にはその頃わからなかったのですが、間もなく、ある人から、こんなことを聞かされました。
 私が使節たちと仲よくするのを見て、
「あれはあゝして、いまにブレフスキュ国の味方になるつもりです。」
 と、皇帝に告げ口した者がいたのです。大蔵大臣のフリムナップと海軍提督のボルゴラムの二人がそれです。
 こゝでちょっとことわっておきますが、私と使節たちとの面会は通訳つきで行われたのです。なにしろ両国の言葉はひどく違っているのでしたが、リリパットの方でも、ブレフスキュの方でも、自分の国
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