@と、どなってくれるのが聞えました。
私はできることなら、どこか無人島を見つけたい、と思いました。そこで働きさえすれば、生きてゆける小さな島があったら、私は、ひとりで静かに暮したいのです。私はヨーロッパのヤーフたちの社会へ帰るのは、もう考えただけでも厭でした。
その日の夕方、向うに小さな島が一つ見えてきて、私は間もなく、そこへ着きました。だが着いてみると、それは大きな岩だったのです。しかし、岩の上によじのぼってみると、東の方に陸地がずっと伸びているのが、はっきり見えました。その晩は舟の中で寝て、翌朝早く起きると、また航海をつづけました。七時間ばかりすると、ニューポランドの東南端に着きました。
私は武器を持っていないので、奥へ進むのは心配でした。海岸で貝を拾いましたが、火をたいて土人に見つかるといけないので、生のまゝ食べました。三日間は牡蠣と貝ばかり食べていましたが、近くに綺麗な小川があったので、水の方は助かりました。
四日目の朝、私は少し遠くへ出かけてみました。ふと、前方の丘の上に、二三十人の土人の姿が見えました。男も女も子供も、真裸で、火を囲んでいるのです。一人がふと私の姿を見つけて、すぐほかの者に知らせたかとおもうと、五人の男がこちらへ近づいて来ました。私はもう一目散に海岸へ逃げて帰ると、舟に跳び乗って漕ぎ出しました。
それから私は舟を北の方へ進めてみました。しばらくすると、向うに帆の影が一つ見えてきました。しかも、船はどん/\こちらへ近づいて来るのです。私はこのまゝ待っていようかしらと思いましたが、ヤーフのことを考えると、たまらなくなりました。そこで舟を漕いで一目散に逃げ出しました。そして私が朝出たあの島へまた戻って来ました。私は小川の傍の岩かげに隠れていました。
後から追って来た舟は、ボートをおろして、この島へ水汲みにやって来ました。そして水夫が上陸するとき、私の独木舟《カヌー》に気づきました。持主がどこかにいるにちがいないと、彼等はそこらじゅうを探しまわりました。武装した四人の男が、とう/\、岩かげにすくんでいる私を見つけだしたのです。革の服、毛皮の靴下、私の奇妙な服装に、彼等は驚いたようです。
「立て、お前は何者だ。」
と、水夫の一人が、ポルトガル語で尋ねました。ポルトガル語なら、私もよく知っているので、すぐ立ち上って答えてやりました。
「
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