ある手紙
原民喜
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佐々木基一様
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御手紙なつかしく拝見しました。あなたから手紙をいただいたり、そのまた御返事をこうして書くのも、思えばほんとに久振りです。空襲の激しかった頃には私はよくあなたやほかの友人に、いつ着くかあてもない手紙を、何の意味もない手紙を、重たい気分で、しかも書かないではいられない気持に駆られて書いたものです。が、今こうしてペンを執ってみると、ふと何となしにそんな奇妙な気分がするのはどうしたことなのでしょう。
私ははじめて『近代文学』第一号を手にした日のことを思い出します。当時、広島で罹災して、寒村の農家の二階で飢えていた私は、むさぼるようにあの雑誌にとびつき、ひどく興奮したものです。久しい間、ああしたものに飢えていた所為もあったでしょう。しかしまたそれにはそれで人を感激さすだけのものがあったようです。たしかにこれは新しい文学運動の中心になるだろう、そんな風な予想からあの雑誌の順調
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