うね。あの古くなつた掛布団はまたもう綿がはみ出したでせうね。縫ふとは切れ縫ふとは切れしてましたもの。貴方は今に綿丈けになつた布団は掛けなければならなくなるでせう屹度《きつと》。それでも悲しまないでね。
何だか私は今頃貴方が冷い御飯に水をかけてお塩をかけて、埃りだらけの布団の隅に踞《うづくま》つて食べて被入る様な気がしてなりません。さうですか? 私は見たい。私の机の抽斗の中に紙に包んだ塩豌豆が少しあつたのを貴方はお見つけになつたかしら。若しまだだつたらもう干枯らびて了つたでせう。
又くどく云ふ様ですけど私の事をお考へになつたらお仕事丈けをして頂戴ね。二人が葬られて了ふ様な事があつたら私はそれこそお恨みしますから。それが私には心配で/\堪らないんですの。どうかすると貴方が絶望してこの暗い世界へ飛び込んで被入りはしないかともう恐ろしくて堪らない事があるのです。私の知らない間に貴方も此処へ来て被入る様な気さへする事がありますの。どうぞね無駄にならない様にしませうね。
あ、今ね貴方の下駄が片方踏み石の下へ引繰り返へつてるのが見えます。一つは格子の側の処へ飛んで貼り柾がむけて来ましたね。
底本:「日本の名随筆77 産」作品社
1989(平成元)年3月25日第1刷発行
底本の親本:「青鞜」青鞜社
1915(大正4)年6月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2006年9月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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