り云つて、田舎の人は悪人ぞろいだと云うので、わたしは腹が立つた。田舎にいる時は、あんなにペコペコしていて、東京へ来ると随分人が変つたようになり、田舎でなくした着物や時計をとりかえしたい位だと云つた。わたしも、奥さんから、お嬢さんの着物を二枚ほど貰つていたけれど、あまり不平を云うので、かえしてしまいたいと思つた。わたしは、山路さんの家の人達をいゝ人達とは思えない。奥さんに、御主人のお母さん、女子大に行つているお嬢さんが二人。みんなつうんと澄していて、寝る時も、一番きたないぼろぼろの蒲団を貸してくれた。一晩だけ山路さんの家へ泊つて、わたしは上野駅に行つた。そこでわたしは小山に逢つた。上野駅の電車の乗り口で呆んやりしていると、何処へ行くのかと話しかけて来た男がいた。わたしは、東京へ働き口をみつけて、知人をたよつて来たのだけれど、そこで薄情にされたから、また田舎へかえるのだけれども、切符が買えなくて困つているのだと話したら、その男のひとは、東京で働きたいのなら、いくらでも職はみつけてやるから、自分の下宿に来ないかと云つた。わたしは、やぶれかぶれになつていたので、何処で世話になるのも同じだと思つ
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