、もう誰かと結婚したいと思うわ」と云つたら栗山は真面目な顔で、「この世の中で、結婚が出来るかい。結婚なンて考えてたつていい相手はみつかりつこないよ」と云つた。わたしは、どうも、赤ん坊が出来てるようだと話すと、栗山は、「いゝさ、何でもいゝよ、赤ん坊も産んだらいゝよ。その時は知らせな。少し位は工面してやる」と云つてくれた。宮城の広い通りを、わたし達は風に吹かれて歩いた。――数寄屋橋で別れる時、栗山は、「また逢うよ。いつでも知らせなさい」と云つて、きれいな名刺をくれて百円札を二枚わたしてくれた。栗山は新しい靴をはいていた。景気がいゝのだろうとわたしは思つた。



底本:「あいびき」東方社
   1957(昭和32)年3月20日発行
※「――或日、久しぶりに銀座で、栗山は案外親切で、こんな事を云つた。」は、「林芙美子全集 第十五巻」文泉堂出版、1974(昭和52)年4月20日発行では、「――或日、久しぶりに銀座で栗山にあった。栗山は案外親切で、こんな事を云つた。」となっています。
入力:林 幸雄
校正:花田泰治郎
2005年8月20日作成
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