らと不思議に思いました。ぴちゃぴちゃと水が鳴っています。私も、ほっほっと鳴いてみました。すると、思いがけない事に河岸の藪の中に何だかごそごそと動く音がしました。私はむじなだと思ったものですから、またぱあと飛び立って、船の屋根にとまりました。
足もとがゆらゆらゆれるので、また飛び立って地びたに降りました。すると、今度は、私の家にいた猫と似ている生物がさっと私に向って來ました。まっしろい猫です。私はびっくりしてさっと飛び立ち、小さい樹の上へ逃げてゆきました。
世の中に出たのはいいけれど、私は籠の中のように、平和に眠る事が出來ません。私は苦しい旅ばかりそれからつづけました。けれど、私の羽根はますます丈夫になり、私は、だんだん心も元氣になりました。この森へやっとたどりついた時には、私は、もう相當年をとりました。私は三年も旅をつづけて、やっと、この安樂な森へたどりついたのです。
私はこの森が一番好きになりました。
たべるものも、よくを出さないかぎり、平和に食べられますし、自由に歌をうたえますし、何と云う住み心地のいいところだろうと思っています。私はまだ、あと一二年は長生き出來るでしょう。
森の神樣に心から私は感謝しているのでございます。
梟はそう云って、ぷきっぷきっとくちばしを鳴らしました。
底本:「童話集 狐物語」國立書院
1947(昭和22)年10月25日発行
入力:林 幸雄
校正:鈴木厚司
2005年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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