まごやしの花がいっぱいだし、ピクニックをするに恰好の場所である。この草原のつきたところに大きな豚小屋があって、その豚小屋の近くに、甲斐仁代《かいひとよ》さんと云う二科の絵描きさんが住んでいた。御主人を中出三也《なかでさんや》さんと云って、この人は帝展派だ。お二人とも酒が好きで、画壇には二人とも古い人たちである。私はこの甲斐さんの半晴半曇《はんせいはんどん》な絵が好きで、ばつけの堰を越しては豚小屋の奥の可愛いアトリエへ遊びに行った。
夕方など、このばつけの板橋の上から、目白商業の山を見ると、まるで六甲《ろっこう》の山を遠くから見るように、色々に色が変って暮れて行ってしまう。目白商業と云えばこの学校の運動場を借りてはよく絵を書く人たちが野球をやった。のんびり[#「のんびり」に傍点]講などと云うハッピを着た連中などの中に中出さんなんかも混っていて、オウエンの方が汗が出る始末であった。
来る人たちが、落合は遠いから大久保あたりか、いっそ本郷あたりに越して来てはどうかと云われるのだけれど、二ヶ月や三ヶ月は平気で貸してくれる店屋も出来ているので、なかなか越す気にはなれない。それに散歩の道が沢山
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