、小鳥屋だの西洋洗濯屋だの麻雀荘と、もう次々に出来てしまって、この頃は夜々駅の横に植木市がたった。この植木市には時々見覚えの合歓の若木などが売りに出ている事がある。植木市と云っても本格的なものではなくてカアバイトの光と撒《ま》き水《みず》きりで美しく粧《よそお》っている品物が多かった。でも値段が安いので、私は蔓薔薇《つるばら》や、唐辛子《とうがらし》の鉢植えなどを買いに行った。
「まるで気絶したようなんね」
 と、冷やかすと、怒りながらまけてくれた。八分ごとに来る電車で、友達が来るのを待っている間に、待呆《まちぼう》けを食って、花鉢を五ツ六ツも買わされた事もあった。
 どっかいいところをと思っているのだけれど、落合は気楽なところだ。もう私の家の壁の汚点《しみ》一ツ覚えてしまったのだが……。

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朝々
寝床の中から
白い壁を見ている

白い壁に何時の間にか
眼の汚点《しみ》が出来て来ると
私はアルコールで
焦々《いらいら》しながら拭《ふ》いて行くのです。
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 家が古いので、一人でいると追いたてられるように淋しい時がある。そんな時は女中と二人
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