ン型の美人であった。御亭主は活動の方へ出ている人なのだが、時々母の持って来る話では、「トオキイちゅうは何かの? 楽隊がいらんごとになってしもうて、お前二階で遊んでおんなさるが」と云うことであったが、市内になってしまったとは云っても、郊外らしい活動館まで、トオキイになってしまっては、楽士さんもなかなか骨なことであろう。

 いまは、秋らしくなった。だが、日中はなかなか暑い。私は二階の板《いた》の間《ま》に寝台を持ち出して寝ている。寝ていると月が体に降りそそぐように明るんで、灯を消していると虫になったような気がして来る。――高台なので、川の向うの昔住んでいたうちや、尾崎さんのいた家、昔は広い草の原であった住宅地などが一眸《いちぼう》のうちに見える。前居た家には、うちに働いていてくれた花子と云う女が世帯を持って住むようになった。小さい屋根に、私たちがしていたように、時々|蒲団《ふとん》が干してある。私が所在なくしたように、小窓から呆《ぼ》んやりした花子の顔が、川一ツへだてた向うに見える。下落合の丘には、あの細々と背の高い榎はないが、アカシアとポプラと桜が私の家を囲んで、春は垣根の八重桜《やえ
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