の足で十五分であり、西武線中井の駅までは四分位の地点で、ここも、妙法寺の境内《けいだい》に居た時のように、落合の火葬場の煙突がすぐ背後に見えて、雨の日なんぞは、きな臭《くさ》い人を焼く匂《にお》いが流れて来た。
その頃、一帖《いちじょう》七銭の原稿用紙を買いに、中井の駅のそばの文房具屋まで行くのに、おいはぎ[#「おいはぎ」に傍点]が出ると云う横町《よこちょう》を走って通らなければならなかった。夜など、何か書きかけていても、原稿用紙がなくなると、我慢して眠ってしまう。ほんの一、二|町《ちょう》の暗がりの間であったが、ここには墓地があったり、掘り返した赤土のなかから昔の人骨が出て来たなどと云う風評があったり、また時々おいはぎ[#「おいはぎ」に傍点]が出ると聞くと、なかなかこの暗がり横町は気味の悪いものであった。その頃はまだ手紙を出すのに東京市外|上落合《かみおちあい》と書いていた頃で、私のところは窪地にありながら字上落合三輪[#「字上落合三輪」に傍点]と呼んでいた。その上落合から目白寄りの丘の上が、おかしいことに下落合と云って、文化住宅が沢山並んでいた。この下落合と上落合の間を、落合川が
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