すがるわけにもゆかないし、と云って転々と動いたところで、月に本が一二冊買えるきり、わけもなく飲んで食って通ってしまう。三畳の間をかりて最少限度の生活はしていても貯えもかぼそくなってしまった。
こんなに生活方針がたゝなく真暗闇になると、泥棒にでもはいりたくなる。
だが目が近いのでいっぺんにつかまってしまう事を思うと、ふいとおかしくなって、冷い壁にカラカラと私の笑いがはねかえる。
何とかして金がほしい……私の濁った錯覚は他愛もなく夢におぼれて、夕方までぐっすりねむってしまった。
十二月×日
お君さんが誘いに来て、二人は又何かいゝ商売をみつけようと、小さい新聞の切抜きをもって、私達は横浜行きの省線に乗った。
今まで働いていたカフェーが淋びれると、お君さんも一緒にそこを止めてしまって、お君さんは、長い事板橋の御亭主のとこへ帰っていた。
お君さんの御亭主はお君さんより卅あまりも年が上で、始め板橋のその家へたずねて行った時、私はお君さんのお父つぁんかと思った。お君さんの養母やお君さんの子供や何だかごたごたしたその家庭は、めんどくさがりやの私にはちょいとわかりかねた。
お君
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