鉄色の大きな手が、カーテンに引っこんで行くところである。
 妙に体がガチガチふるえる。どうなるものか、私は大きなセキをした。

 カーテンの外に呶鳴っている料理人の声がする。
「生意気な! 汚ない真似しよると承知せんぞ!」
 サッとカーテンが開くと、料理鉋丁のキラキラしたのをさげて、料理人が、一人の若い男の脊を突いてはいって来た。
 そのむくんだ顔に覚えはないが、鉄色のその手にはたしかに覚えがあった。
 何かすさまじい争闘が今にもありそうで、その料理鉋丁の動く度びに、私はキャッとした思いで、親指のようにポキポキした料理人の肩をおさえた。
「くせになりますよッ!」
 機関室で、なつかしいエンジンの音がする。
 手をはなすと、私は沈黙ってエンジンの音を聞いた。
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   秋の唇

 十月八日
 呆然と梯子段の上の汚れた地図を見ていると、蒼茫とした夕暮れの日射しに、地図の上は落寞とした秋であった。
 寝ころんで、煙草を吸っていると、訳もなく涙がにじんで、細々と佗しくなる。
 地図の上では、たった二三寸の間なのに、可哀想なお母さんは四国の海辺で、朝も夜も私の事を考えて暮らして
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