です。」
「尾道です。」
「こんな時は、もう仕様おまへん、お乗せしますよってに、これ落さんように持って行きなはれ……。」
ツルツルした富久娘のレッテルの裏に、私の東京の住所と姓名と年と、行き先きを書いたのを渡してくれた。
これは面白くなって来た。
何年振りに尾道へ行く事だろう。あゝあの海、あの家、あの人……お父さんや、お母さんは、借金が山程あるんだから、どんな事があっても、尾道へは行かぬように、と云ったけど、少女時代を過ごしたあの海添いの町を、一人ぽっちの私は恋のようにあこがれた。
「かまうもんか、お父さんだって、お母さんだって知らなけりや、いゝんだもの?」
鴎のような水夫達の間をくゞって、酒の香のなつかしい酒荷船へ乗り込んだ。
七拾人ばかりの中に、女は私と、いゝ取引先のお嬢さんであろう水色の服を着た女と、美しい柄の浴衣を着た女と三人きりである。その二人のお嬢さん達は、青い茣座の上に始終横になって、雑誌を読んだり、果物を食べたりしていた。s
私と同じ年頃なのに、私はいつも古い酒樽の上に腰かけているきりで、彼の女達は、私を見ても一言も声を掛けてはくれない。
「ヘエ! お高く
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