#「しゃぼん」に傍点]の泡のように白いものずくめ、薄いものずくめだ。
閑散な、お上品なこんな貿易店で、日給八拾銭の私は売り子の人形、だが人形にしては汚なすぎるし、腹が減りすぎる。
「あんたのように、そう本ばかり読んでも困る、お客様が見えたら、おあいそ位云って下さい。」
酔っぱいものを食べた後のように歯がじん[#「じん」に傍点]と浮いた。
本を読んでいるんじゃないんです。こんな婦人雑誌なんか、私の髪の毛でもありはしない、硝子のピカピカ光っている面を一寸覗いて御覧下さい。水色の事務服と浴衣が、バックと役者がピッタリしないように、何とまあおどけた厭な姿……。
顔は女給風で、それも海近い田舎から出て来たあぶら[#「あぶら」に傍点]のギラギラ浮いた顔、姿が女中風で、それも山国から来たコロコロした姿、そんな野性な一本の木が、胸にレースを波たゝせた水色の事務服を着ているのです。
ドミエの漫画! 何とコッケイな、何とちぐはぐな鶏《にわとり》の姿!
マダム・レースや、ミスター・ワイシャツや、マドモアゼル・ハンカチの衆愚に、こんな姿をさらすのが厭なのです。
それに、サーヴィスが下手だとおっしゃる貴方の目が、いつ私をくびきる[#「くびきる」に傍点]かも判らないし、なるべく、私と云う売り子に関心を持たれないように、私は下ばかりむいているのです。
あまりに長いニンタイ[#「ニンタイ」に傍点]は、あまりに大きい疲れを植えて、私はめだたない人間にめだたない人間に訓練されて来たのです。
あの男は、お前こそめだつ人間になって闘争しなくちゃ嘘だと云うのです。
あの女は、貴女はいつまでもルンペンでいけないと云うのです。
そして、勇カンに戦かっているべき、彼も彼女も……。
彼いっこ[#「いっこ」に傍点]の白き手のインテリゲンチャ!
彼女いっこ[#「いっこ」に傍点]のブルジョワ夫人!
仲間同志で嫉妬に燃えています。
彼や彼女達が、プロレタリヤを食い物にして、強権者になる日の事を考えると、宇宙はどこが果てなんだろうと考えるし、人生の旅愁を感じる。
歴史は常に新らしく生きる――。そこで磨れ[#「磨れ」に傍点]ば燃えるマッチがうらやましくなった。
夜――九時。
省線を降りると、道が暗いので、ハーモニカを吹き吹き帰える。
詩よりも小説よりも、こんな単純な音だけど音楽はいゝナ。
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