供が行ったっちゃ、おごらるるばかり、待っとれ!」
「うんにゃ! うんにゃ! 一人じゃ淋《さび》しか!」
「ビンタ[#「ビンタ」に傍点]ばやろかいッ!」
 母が出て行った後、私は、オイオイ泣いた。階下のおばさんが、這い上って来て、一緒に傍に横になってくれても、私は声をあげて泣いた。
「お父さんが云わしたばい、あア、おばっさん! 戦争の時、鑵詰《かんづめ》に石ぶち込んで、成金さなったものもあるとじゃもの、俺がとは砂粒《すなつぶ》よか、こまかいことじゃ云うて……」
「泣きなはんな、お父さんは、ちっとも悪うはなかりゃん、あれは製造する者が悪いんじゃけのう」
「どぎゃんしても俺や泣く! 飯ば食えんじゃなっか!」
 私は、夕方町の中の警察へ走って行った。
 唐草《からくさ》模様のついた鉄の扉に凭れて、父と母が出て来るのを待った。「オンバラジャア、ユウセイソワカ」私は、鉄の棒を握って、何となく空に祈《いの》った。
 淋しくなった。
 裏側の水上署でカラカラ鈴《すず》の鳴る音が聞える。
 私は裏側へ廻《まわ》って、水色のペンキ塗《ぬ》りの歪んだ窓へよじ登って下を覗いてみた。
 電気が煌々《こうこう》と
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