風琴と魚の町
林芙美子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)上手《じょうず》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)私|達《たち》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かまぼこ[#「かまぼこ」に傍点]
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1 父は風琴を鳴らすことが上手《じょうず》であった。
音楽に対する私の記憶《きおく》は、この父の風琴から始まる。
私|達《たち》は長い間、汽車に揺《ゆ》られて退屈《たいくつ》していた、母は、私がバナナを食《は》んでいる傍で経文を誦《ず》しながら、泪《なみだ》していた。「あなたに身を託《たく》したばかりに、私はこの様《よう》に苦労しなければならない」と、あるいはそう話しかけていたのかも知れない。父は、白い風呂敷包《ふろしきづつ》みの中の風琴を、時々|尻《しり》で押《お》しながら、粉ばかりになった刻み煙草《たばこ》を吸っていた。
私達は、この様な一家を挙げての遠い旅は一再ならずあった。
父は目蓋《まぶた》をとじて母へ何か優《やさ》し気《げ》に語っていた。「今に見いよ」とでも云《い》っているのであろう。
蜒
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