供は私が養育するより仕方がないとおもつてゐます。兄の方を、父親へかへしてやらうかともおもひましたけれども、いざとなると、可愛くて手離すことが出來ませんし‥‥」
「ぢやア、生活はどうします?」
「えゝ、それなンですけれど、どうしたらいゝかと思つてゐますの。二十八にもなつて、しかも子供まであるンですもの、おいそれと、いゝ職業もみつかりつこはありませんし、いつそ、親子心中でもしようかとおもつたりしましたわ」
「ぶつさうですね、――まア、四五日、こゝにゐらつしやい。そしてよく考へるンですよ。死ぬることはいつでも出來ます。最後の瞬間まで、元氣を持たなくちやいけませんね」
 娘の頃よりも落ちついてゐて、ふじ子の胸や腰の肉づきが、木山には變にくすぐつたい感じだつた。ふじ子は、このごろ、何もたのしいことがないから、腹いせに煙草を喫ひ出してみたのだと、袂から「朝日」を出して一本口に咥へた。
 煙草を唇に咥へた手つきも妙に自然だつたし、白粉氣のない、白い皮膚が、さつぱりとしてゐる。木山はこの女が四五日ゐたところで不快ではないとおもひ、
「まア、ゆつくりしてゐらつしやい、僕は子供好きだし、賑やかでいゝ」
 
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