たちは、どんなところへ連れてゆかれても、母親が傍にゐるかぎりは、愉しさうにいろいろなものを、流れるやうに歌つてゐる。
 健吉はちづ子と頭をならべて、牛乳こい、お菓子こい、ジャミパンこいとうたつてゐた。
「いやアな健ちやんねえ、おなか空いたの?」
「うん、ちいちやんだつておなか空いたよ」
「ちいちやん、おとつぷ[#「おとつぷ」に傍点]たべるの‥‥」
 四つになるちづ子が、健吉をまたいで、ふじ子のふところへ飛びついてきた。彈力のある、子供の柔らかい重みが、ふじ子にはこれが幸福な有力とでも云ふのだと、謙讓なおもひだつた。
 顏を洗つて、まづい朝御飯をすませると、ふじ子は、三年前にきた木山の年始状を頼りに、宿から、木山の勤め先へ電話をかけてみた。
「あゝ、木山さんでゐらつしやいますか、二三ヶ月前からお躯がわるくて、お休みでゐらつしやいますが‥‥」
 ふじ子は、夢かかすみのやうに遠く去つた木山に對して、いまごろ電話をかけたりする自分ををかしい女心だと苦笑しながらも、木山の下宿先をたづねてみずにはゐられなかつた。
 木山は胸をわるくして、千葉の稻毛海岸に保養に行つてゐると云ふことである。宿の名も教
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