と音をさせて並べた。
「まだ、あんたはそんなことを云つてゐるのね。わかれてしまふつて云つたところで、お互ひ、よくなつてゆけば、またかうして一緒になれるンですよ。あんまり※[#「月+奏」、第3水準1−90−48]理《きめ》のこまかいこと云ふもンぢやないわよ、悲しくなるぢやないの‥‥」
「ふゝん、悲しくなるか、だが、わかればなしを持ちだしたのはあんたぢやないか」
なか子は黙つてゐた。切角気持ちよく、さつきはあんなにあはあは笑へたのに一寸拍子が逆になると、嘉吉の方が弱り出してしまふので、それが、なか子には余計に歯がゆく思へる。――嘉吉はそこへ寝そべつて、いまさらゝしく四囲を眺めてゐたが、風に吹かれてゐるやうな女の顔を見ると、これが四年も連れ添つてゐた女なのかと思ひ、額に浮んでゐる小皺のやうなものにも、まるで、手擦れのした道具のやうな愛惜を感じた。
「ま、何でもいゝさ、お互ひ躯を丈夫にしてるこつたよ」
「厭ね、まだ、本当に別れてしまつたつて云ふわけぢやなし、そんなこと云ふのおかしいわよ」
「‥‥‥‥」
こんどは嘉吉の方がむつゝりと黙つてしまつて、女の心のなかに何とない余裕のあることを見てと
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