貸家探し
林芙美子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)山崎朝雲《やまざきちょううん》と

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)荒川区|日暮里《にっぽり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「やみくも」に傍点]
−−

 山崎朝雲《やまざきちょううん》と云うひとの家の横から動坂《どうざか》の方へぽつぽつ降りると、福沢一郎《ふくざわいちろう》氏のアトリエの屋根が見える。火事でもあったのか、とある小さな路地の中に、一軒ほど丸焼けのまま柱だけつっ立っている家のそばに、サルビヤが真盛りの貸家が眼についた。玄関が二つあるけれども、がたがたに古い家で、雨戸が水を吸ったように湿っていた。ビール瓶で花園をかこってあるが、花園の中には塵芥が山のように積んであり、看護婦会の白い看板が捨ててあったりする。こんな家に住むのは厭《いや》だなと思い、路地から路地を抜けて動坂の電車通りへ出て、電車通りをつっ切り染物屋の路地へ這入《はい》ると、ここはもう荒川区|日暮里《にっぽり》九丁目になっている。荒川区と云うと、何だか遠い処《ところ》のように
次へ
全12ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング