ですか?」
「ええ、とても、あんな酒飮みつて紳士ぢやありませんね――義之さんと正反對なんですもの……」
「義之君、元氣ですか?」
「ええ、とても。いま滿洲へ行つてらつしやいますのよ。此間いらしつたの……」
「へえ、……滿洲へね……」
「貴方のおうはさよくしていらつしたわ……」
 周次は皮膚の澄んだぼてぼてとふとつたくみ子の胸のあたりを眺め、胸のときめきを感じてゐた。
「今日はここへ泊りますか? 僕は飯でも濟んだらぼつぼつ歸りますよ……」
 食事を終つて、周次が暑い暑いと籐椅子のところへ行くと、くみ子はしよんぼりと團扇をつかひながら、
「あら、お歸りになるんですか?――私、疲れてしまつてもうどこへも動きたくないの……よかつたら泊つていらつしやらない?」
「ははははは……泊つたところで、僕が困りますよ。明日は早いですからね。どうです? 一寸川べりでも歩いて、それから、一應市内へ歸らうぢやありませんか。友達の家はどこなんです?」
「私ね、本當は、東京で何かして働きませうと出て來たんですの……二三日こんな處でゆつくり躯を休めて、それから友達のところへ行つてもいいのですわ」
「ぢやア、さうなさい
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