とで、周次は母と大阪へ行つたついでに叔父の家でくみ子とみあひをしたのだつた。
 周次が二十四、くみ子が十八の秋だつた。叔父の家の裏の茶席で、周次はくみ子から茶をたててもらつて飮んだ。茶の流儀は何も知らなかつたけれど、周次は美しいくみ子の姿に、掌の寶玉のやうないとしいものを感じて、茶の苦味さ、菓子の美味さも云ひやうのない愉しさだつた。周次はそれから、一ヶ月あまりも大阪の叔父の家にゐたのだ。
 云はば許婚《いひなづけ》のやうな間柄になつた二人は、日がへりで奈良や京都にも遊びに行つたりした。周次が東京へ戻つて來ると、くみ子もすぐ東京へ遊びに來たりして、周次の家へ一週間も寢泊りしてゐたり、周次は勿論、母にも、くみ子のあどけなさは愉しいこのましさだつたのだ。
 年が明けて、二月早々には結婚式をしたらどうかと、周次の方で大阪の叔父へ相談の手紙を出した時、折返して來た叔父の手紙には、藪から棒に、くみ子のことはあきらめてくれるやうにと云ふ文面が書いてあつた。
 周次は何のことだかさつぱり判らなかつたので、周次の母がひとりでわざわざ大阪へ自分から樣子をききに出向いて行つたりもした。――大阪へ出向いて行つ
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