んの白い肌を見ていると、妙に悩ましい気持ちだった。
「私は、これでも子供を二人も産んだのよ。」
 お由さんはハルピンのホテルの地下室で生れたのを振り出しに、色んなところを歩いて来たらしい。子供は朝鮮のお母さんにあずけて、新らしい男と東京へ流れて来ると、お由さんはおきまりの男を養うためのカフエー生活だそうだ。
「着物が一二枚出来たら、銀座へ乗り出そうかしらと思っているのよ。」
「こんなこと、いつまでもやる仕事じゃないわね、体がチャチになってよ。」
 春夫の東窓残月の記を読んでいると、何だか、何もかも夢のようにと一言眼を射た優しい柔かい言葉があった。何もかも夢のように……、落ちついてみたいものなり。キハツで紫の衿《えり》をふきながら、「ゆみちゃん! どこへ行ってもたより[#「たより」に傍点]は頂戴ね。」と、由ちゃんが涙っぽく私へこんなことを云っている。何でもかでも夢のようにね……。
「そんなほん[#「ほん」に傍点]面白いの。」
「うん、ちっとも。」
「いいほん[#「ほん」に傍点]じゃないの……私高橋おでんの小説読んだわ。」
「こんなほん[#「ほん」に傍点]なんか、自分が憂鬱になるきりよ。」
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