が出たけれど、まるで、日曜の教会に行ったような少女の日を思い出させた。
「君はいくつですか?」
「二十一です。」
「もう肩上げをおろした方がいいな。」
私は顔が熱くなっていた。三十五円毎月つづくといいと思う。だがこれもまた信じられはしない。――家へ帰ると、母は、岡山の祖母がキトクだと云う電報を手にしていた。私にも母にも縁のないお祖母《ばあ》さんだけれどたった一人の義父の母だったし、田舎でさなだ[#「さなだ」に傍点]帯の工場に通っているこのお祖母さんが、キトクだと云うことは可哀想だった。どんなにしても行かなくてはならないと思う。九州の父へは、四五日前に金を送ったばかりだし、今日行ったところへ金を借りに行くのも厚かましいし、私は母と一緒に、四月もためているのに家主のところへ相談に行ってみた。十円かりて来る。沢山利子をつけて返そうと思う。残りの御飯を弁当にして風呂敷に包んだ。――一人旅の夜汽車は侘しいものだ。まして年をとっているし、ささくれた身なりのままで、父の国へやりたくないけれど、二人共絶体絶命のどんづまり故、沈黙《だま》って汽車に乗るより仕方がない。岡山まで切符を買ってやる。薄い灯の
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