買って汽車に乗った。汽車の中には桜のマークをつけたお上りさんの人達がいっぱいあふれていた。
「桜時はこれだから厭ね……」
一つの腰掛けをやっとみつけると、三人で腰を掛ける。
「子供との汽車の旅なんて何年にもない事だわ。」
夕方、お君さんの板橋の家へ着いた。
「随分、一人でやるのは心配したけれど、一人で行きたいって云うから、あたしがやったんだよ。」
髪を蓬々させたお婆さんが寝転んで煙草を吸っていた。
「この間は失礼しました、今日は何だか一緒にかえりたくなってついて来ましたのよ。」
長屋だてのギシギシした板の間をふんで、お君さんの御亭主が出て来た。
「こんなところでよければ、いつまででもいらっしゃい。またそのうちいいところがありますよ。」と云ってくれる。
部屋の中には、若い女の着物がぬぎ散らかしてあった。
夜更け。フッと目が覚めると、
「子供なんかを駅へむかいにやる必要はないじゃありませんか、貴方が行っていらっしゃい、貴方が厭だったら私が行って来ます。」
お君さんの癇《かん》走った声がしている。やがて、土間をあける音がして、御亭主が駅へ妾さんをむかいに出て行った。
「オイ
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