下の画塾では、夜学もあるのか、カーテンの蔭《かげ》から、コンテを動かしている女の人の頭が見える。自分の好きな勉強の出来る人は羨《うらや》ましいものだ。同じ画描きでも私のは個性のないペンキ屋さんです。セルロイドの色塗りだってそうだったし……。明日は、いいお天気だったら、蒲団を干してこのだらしのない花園をセイケツにしましょう。
(三月×日)
昨夜、夜更けまで内職をしたので、目が覚めたのが九時ごろだった。蒲団の裾にハガキが二通来ている。病気をして入院をしていると云う松田さんのと、来る×日、万世橋駅にお出向きを乞う、白いハンカチを持っていて下さると好都合ですと云った風な私宛のハガキだった。心当りが少しもないので、色々考えた末、不図、ベニの事を思いついた。パパにも知れないように、一人者の私の名を利用したのかも知れないと思う。手に白いハンカチを持っていて下されば好都合ですか……淫売にでも叩きうられるのが関の山かも知れない。かつて、本郷の街裏で見た、女アパッシュの群達の事が胸に浮んできた。ベニは粗野で、生《き》のままの女だから、あんな風な群に落ちればすさまじいものだと思う。
今日は風強し。上野
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