うサインを画学生達がしている、すると、この十七の女学生は指を二本出してみせた。
「その指何の事よ。」
「これ! 何でもないわ、いらっしゃいって言う意味にも取っていいし、駄目駄目って事だっていいわ……」
 この女学生は不良パパと二人きりでこのアパートに間借りをしていて、パパが帰って来ないと私の蒲団にもぐり込みに来る可愛らしい少女だった。
「私のお父さんはさくらあらいこの社長なのよ。」
 だから私は石鹸《せっけん》よりも、このあらいこをもらう事が多い。
「ね、つまらないわね、私月謝がはらえないので、学校を止《よ》してしまいたいのよ。」
 火鉢がないので、七輪に折り屑《くず》を燃やして炭をおこす。
「階下の七号に越して来た女ね、時計屋さんの妾《めかけ》だって、お上さんがとてもチヤホヤしていて憎らしいったら……」
 彼女の呼名はいくつもあるので判らないのだけれど、自分ではベニがねと云っていた。ベニのパパはハワイに長い事行っていたとかで、ビール箱でこしらえた大きいベッドにベニと寝ていた。何をやっているのか見当もつかないのだけれど、桜あらいこの空袋が沢山部屋へ持ちこまれる事がある。
「私んとこのパ
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