飛沫《しぶき》がかかるどころではない、ザンブザンブ潮水を呑んで、結局私も昨夜の淫売婦と、そう変った考えも持っていやしない。あの女は三十すぎていたかも知れない。私がもしも男だったら、あのまま一直線にあの夜の女に溺《おぼ》れてしまって、今朝はもう二人で死ぬる話でもしていたかもしれない。
昼から荷物を宿屋にあずけて、神田の職業紹介所に行ってみる。
どこへ行っても砂原のように寥々とした思いをするので、私は胸がつまった。
(お前さんに使ってもらうんじゃないよ。)
おたんちん!
ひょっとこ!
馬鹿野郎!
何と冷たい、コウマンチキな女達なのだろう――。
桃色の吸取紙のようなカードを、紹介所の受付の女に渡すと、
「月給三十円位ですって……」
受付女史はこうつぶやくと、私の顔を見て、せせら笑っているのだ。
「女中じゃいけないの……事務員なんて、女学校出がうろうろしているんだから駄目よ、女中なら沢山あってよ。」
後から後から美しい女の群が雪崩れて来ている。まことにごもっともさまなことです。
少しも得るところなし。
紹介状は、墨汁会社と、ガソリン嬢と、伊太利《イタリア》大使館の女中と
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